- 人馬間の信頼獲得
- 歩調と緊張の緩和の理解
- やさしい図形騎乗
- 速歩における前下方への頭頸の伸展
- 常歩への移行
すみやかに手綱を徐々に拳からすべらせるようにして全面的に手綱を伸ばす
推進力の養成期
- 三種の歩法内における頭頸の伸展
- 安定したハミ受けの養成
- 後肢の活気ある馬体下への踏み込み
- 背の柔軟性と弾力性の養成
- 歩度の伸縮(弾発の養成)
- 「訓練段階」6点の養成
- 筋力と体力の強化
若馬がよく人間の取り扱いに慣れ、装勒、装鞍、調馬索作業、騎乗下での行進などができるようになることが、これからの作業においての前提条件となります(予備調教)。今後は本格的な初期調教に入っていくことになりますが、決して調教を急いではいけません。なぜなら、馬の成長期というのは、一般的に軽種の場合は約6才位、中間種の場合は約7才位までかかるからです。この期間若馬は成長途上にあり、精神的にはまだ幼稚であり、また肉体的にも骨格も筋力も十分とは言えません。そのため、無理な調教は馬の心身に大きな負担をかけるもとになるので、若馬の調教には十分時間をかけるべきです。馬の精神面と肉体面の両面をよく見極めて調教を進めることが必要です。それによって健康的でかつ従順な馬を育てることができます。
さて、この時期における若馬は、騎手を背に受けながらもかなりの運動バランスを得て行進できるようになっていることが必要です。すなわち、常歩・速歩・駈歩で簡単な図形運動(蹄跡行進・斜手前変換・輪乗りなど)ができることです。但し、ここまでの時期においては、騎手は馬の頭頸を強く規制するほどにハミ受けを求めてはならず、軽く馬の口との連絡(コンククト)を保つ程度の手綱の張りにとどめておくことです。それによって馬は背を使って歩くことができます。それが若馬の運動バランス(騎乗下での)を得る最大の道であり、とても大切なことです。もし、逆にこの時期に強くハミ受けを求めたなら、若馬は口に強い抵抗を感じ、馬体(特に背)を硬くし、背を使って歩くことができなくなります。馬というものは首でバランスをとって歩くものなので、くれぐれもこのことは注意しましょう。
それによって馬は調教の初期より馬体の力を抜いて背と首を使って歩くことを理解します。そのことが騎手の扶助に対し従順な馬に育てることにつながります。なお若馬の騎乗時において、速歩においては軽速歩を主に、そして駈歩においては軽く前傾姿勢を主に多用するべきです。それによって馬の背の負担を軽減することができます。あくまでも馬の背の柔らかさを感じたときのみ軽く尻をつけるようにします。但し、決して強く座り込まないように注意しましょう。
このように予備調敦なり初期調教なりを慎重に行うだけで、馬は自らバランスよく歩き(歩調)。馬体の力も抜いて(緊張の緩和)歩くようになります。そうすると、自ずと馬は騎手の拳に対して柔らかくハミを受けてくるようになります。すなわち、初め馬は多少騎手の拳に対して抵抗を示してくることもありますが、それをあえて手綱を引かないように、ただ馬の口とのコンタクトを得ておく程度に騎手は拳を保ちます。その時同時によく馬を前に推進することによって、次第に馬はハミを受けてくるようになります(ハミ受け)。このように馬が騎手の拳に対して譲ってきたとき、騎手はすかさず外方に支点を得ながらも内方拳をわずかに譲ることです。但し、この時の内方拳の譲りは手綱がたるむほどではなく、あくまでも馬の内方の口とのコンタクトを感じながらの譲りです。それは時としてわずかな指のゆるめだけでよい場合もあれば、拳または肘の譲りの場合もあります。
また、拳の静定とは、固定ではなく、いついかなる場合でも絶えず馬の口の動きに対してついていける状態にあるという事です。その動作が静かにできることによって絶えず馬の口とのコンタクトを一定の状態に保つという事です。このように拳を静定し、その馬の伏態に応じた推進を適確に行うことによって、馬はハミを静かにかつ柔らかく受け入れるようになります。そうするとますます拳の静定が安定してきます。このように騎手の扶助に従って馬が歩くことができれば、自ずと基本的な図形騎乗が可能となります。この図形運動を通して馬は運動バランスや体勢が整えられてきます。
このようにして若馬が正確に図形騎乗を実施できるようになると「Aクラスの馬場経路」を踏むことができるようになります。A クラスの馬場経路は日本国内の場合、日馬連制定の「第1課目」と「第2課目」に相当します。馬場馬に限らず障害馬や総合馬の場合も、すべては最低この A クラスの馬場運動課目を正確にできるべきです。それによって馬場馬は正確な馬場経路を実施でき、障害馬や総合馬などもよく騎手の扶助に従って障害飛越や野外走行ができるようになるでしょう。
若馬が無理なく「Aクラスの馬場経路」を実施できるようになったら、いよいよ馬に「収縮運動」を求められるようになります。
負重力の養成期
この段階になったら、若馬はもう乗用馬としての経験も積んで、年令的には約5~6才(3才半~4才位に騎乗開始したとして)になっているでしょう。まさに途上期にある段階で、これからさらに多くの事を学んでいかなければなりません。今まで通り、慎重さと基本に忠実な乗り方を心がけていくことです。
決して進度を急いではいけません。馬の調教にこだわり、早くいろいろな課目を馬に教えたがることは慎まなければなりません。馬を前に推進することをせずに課目を教えようとしても、馬がその課目を実施でき得る状態になければ馬は人間の扶助に従えません。馬が従わないのではなく、従えないのです。もし馬になにか教えようとするするなら、馬がそれを理解できるような準備と体勢を前もって得ることです。それがあって初めて、馬は騎手の扶助を理解して実施することが出来ることでしょう。そのためには馬をよく前に推進して透過性とバランスを得ることです。“推進扶助は抑制扶助に勝る”という言葉を念頭に置いてやりましょう。
さて、この段階はある意味では本格的な調教段階ということができます。すなわち、これまでは速歩においては軽速歩を、駈歩においては軽減姿勢または前傾姿勢を多用してきたと思います。なぜなら、若馬の背に対する負重を避けるためだからです。しかも、騎手の扶助は体重扶助よりも脚扶助を主体としてきました。しかしこれからは、馬にある程度の収縮を求めることが必要になってきます。この時期になると、今度は脚扶助よりも体重扶助が主体となってきます。すなわち、体重扶助の中に、より腰扶助(腰の張り)を伴わせて騎手の体重扶助を馬に伝えるようになります。脚はもちろん相変わらず使用しますが、あくまでも体重扶助を補助するかたちで使用していきます。なぜなら、人間の脚力には限度があり、これからの段階においては体重扶助の方が脚扶助以上の効果を与えて行くことが大切です。推進扶助の役割はとても重要なので、脚扶助は決して怠らないようにしましょう。